MCIとは
MCI(Mild Cognitive Impairment・軽度認知障害)は“加齢による通常の物忘れを超えて認知機能が低下しているが、日常生活はほぼ自立して行える状態”を指します。認知症と正常の中間に位置する概念です。
主な特徴は
- 記憶力(特に最近の出来事)の低下が目立つ
- 本人や周囲が「以前より忘れっぽくなった」と気づく
- 判断力・理解力・注意力などが軽度に低下することもある
- 日常生活や社会生活への支障は軽度にとどまる
認知症との違いは
- MCI:認知機能の低下はあるが、生活の自立性は保たれている
- 認知症:認知機能の低下により、日常生活に明らかな支障が生じる
つまり、MCIは診断基準において、認知症には該当しない状態です。
ではなぜMCIが重要なのかというと
- MCIの一部(年間約10~15%)はアルツハイマー型認知症などに進行する
- 一方で、適切な介入(運動、知的活動、社会参加、生活習慣の改善)により、改善または進行抑制が可能なケースもある
そのために、MCIは早期発見・早期対応が重要な段階とされています
さらに2024年12月からはMCIにも健康保険で治療薬が使えるようになりました。そして治療により、アルツハイマー型認知症への進行を遅らせることが可能になりました。
次にその新しい治療薬、抗アミロイドβ抗体薬について説明します。
抗アミロイドβ抗体薬
アルツハイマー型認知症の脳内で産生され蓄積されるアミロイドβ(Aβ)蛋白に対するモノクローナル抗体で、アミロイドβと結合することによりそれらを脳内から除去して病気の進行を抑制する治療薬です。
1)作用メカニズム
アルツハイマー型認知症の発症メカニズムは、初めに脳内でアミロイドβという異常なタンパク質が産生されるところから始まります。アミロイドβは凝集して蓄積すると様々な毒性を発揮します。最も重要なのはアミロイドβが引き金となり神経細胞の骨組みを構成するタウ蛋白質が過剰にリン酸化されて神経原線維変化というゴミになり神経細胞内に蓄積することです。またタウ蛋白の異常は神経ネットワークを通じて脳全体へ拡散されます。さらにミクログリアという脳内の炎症細胞の機能が異常に活性化されて神経細胞のシナプスを破壊します。脳内に慢性炎症が持続することで最終的には神経細胞死へ至ります。
抗アミロイドβ抗体はアミロイドβと結合してそれらが脳内から取り除かれるように作用します。すなわち抗アミロイドβ治療薬はアルツハイマー型認知症の発症メカニズムの最上流に作用して、病気の進行をストップさせる治療薬といえます。
2)現在使われている抗体
薬剤名 標的
レカネマブ 可溶性Aβ凝集体
ドナネマブ 沈着したAβプラーク
※いずれも静脈投与
3)どんな患者が対象?
適応
- 軽度認知障害(MCI)
- 軽度アルツハイマー型認知症
そして脳内Aβが検査で確認されていることが必須です。
それにはアミロイドPETで陽性、または髄液中のAβ42低下を確認します。
この治療は中等度〜高度の認知症には効果がありません。
4)臨床効果:どのくらい効く?
- 認知機能を改善するわけではない
- 進行を約20〜30%遅らせる
つまり「治る薬」ではなく、「坂道を少しなだらかにする薬」です。
5)副作用:ARIAは必ず理解して下さい
ARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities:アミロイド関連画像異常)とは、治療に伴ってMRIで見つかる副作用で、以下の2種類があり約2割に発現します。
- ARIA-E:脳浮腫
- ARIA-H:微小出血・脳表ヘモジデリン沈着
MRIの画像異常が出現しますが大部分は無症状です。しかし中には頭痛、意識障害、痙攣を伴うこともあるので注意する必要があります。
ARIAが発現した時には、厚生労働省のガイドラインなどに従って医師が治療の継続・中断・中止を決定します。
6)治療方法
特定の専門医療機関において、適応を確認して治療を開始します。
2週間か4週間に1回、定期的に通院して30分から1時間の点滴治療を1年から1年半続けることになります。よって治療には通院しやすい医療機関を選ばれるのがよいでしょう。副作用が無く治療を継続できるようならば、6ヶ月以後はかかりつけ医で同じ点滴治療を受けることもできます。その場合でも3ヶ月に1回程度は専門医療機関で効果と副作用のチェックを受けることになります。
7)費用
一年間の薬価が約300万円の高額な薬です。アミロイドPETは自費で15~20万円、保険適用で4~7万円が必要です。高額療養費制度により自己負担に上限はありますが、年間約80~150万円が必要となります。
その他にも毎回の治療通院に介護者の同伴を必要とされる場合もあります。


